心意気インタビューとは、地域の「ヒト・モノ・コト」の心意気を発見していくコンテンツ。
今回の取材先は米沢みさわ小学校|とここと 谷山紀佳(たにやまのりか)さん。
旧・米沢市立三沢東部小学校を活用した「米沢みさわ小学校|とここと」は、宿泊や地域体験ができる場所です。かつて子どもたちが学んだ教室で、仲間たちと語り合ったり、地域の人々と出会ったり、学びと発見にあふれる時間を過ごすことができます。なぜこの「泊まれる小学校」が生まれたのか。想いを伺いました。
この記事で読めること
谷山紀佳さんへのインタビュー
米沢みさわ小学校|とこことさんが誕生したきっかけを教えてください
旧三沢東部小学校は、創立100周年を迎えた2023年に廃校となりました。地域の方々は子どもたちの教育環境を優先しつつも廃校を受け入れましたが、「学校を地域のシンボルとして残したい」と願っていたんです。なんとかそうした願いに応えるべく、2年間の準備を経て「宿泊・地域体験・交流の拠点」として生まれ変わったのが「とここと」です。経営は私自身初挑戦で、まさにジェットコースターのような毎日ですが、多くの人に支えられながら歩みを進めています。
私が「とここと」に関わることになったきっかけは、米沢市で地域おこし協力隊として移住担当を務めた経験です。前職では福岡で団地再生に携わり、リノベーションを通じたまちづくりを行ってきたことも背景にあります。その頃からゲストハウスをいつかやりたいと考えており、その夢を覚えていてくださった方に声を掛けていただいたことで今の挑戦へとつながりました。
協力隊として活動する中で「米沢が特別な場所になった」と喜ぶ方の姿を目にし、これからもそうした機会を生み出したいと強く感じました。さらに、地域の人々が主体となって支えてくれる熱量にも後押しされ、「この人たちとなら一緒に挑戦したい」と決意しました。まだ経験は少ないですが、多くの方に助けていただきながら時間を注ぎ、一歩ずつ前に進んでいます。

「とここと」として宿を経営する上で、大切にされていることはなんですか?
一番大切にしているのは、お客様がどんな気持ちで訪れ、この土地でどんな思い出を持ち帰ってくださるかということです。
名前の『とここと』には、“宿(とこ)”と“事(こと=体験)”、そして“あなたと、ここと”という意味を込めています。訪れてくださった方とこの土地や学校の記憶が、これからもつながっていくような場所でありたいと思っています。
そのため、何かを決めるときには『この体験を通して、お客様はどんな思い出を持ち帰れるだろうか』『地域の方々にはどんな喜びや交流が生まれるだろうか』ということを意識しています。サービスや空間づくりも、その視点を大切にしています。
また、体験を通じて新しい出会いや気づきが生まれる場にしたいと考えています。たとえば、地元の農家さんに協力いただき「さくらんぼ農家になりきる体験」を行った際には、参加者と農家さんの思わぬ縁がつながり、後日「今度遊びに行きます」と交流が続きました。単に楽しかったで終わるのではなく、人生で知らなかった世界に触れることで視野が広がり、特別な出会いへとつながっていく、そんな体験を提供できることも、「とここと」の魅力だと思っています。

廃校という強みを活かした、学びのプログラムが中心になるのでしょうか?
学校ということもありラインナップを「五教科っぽく」できたら面白いなと思っているんです。たとえば、織物工房は家庭科の時間、農家さんの体験は社会科の時間、といった内容で考えています。まだ具体的にコンセプトとして言葉にできているわけではありませんが、そんなイメージが浮かんでいます。ここにわざわざ泊まりに来てくださる方が求めているのは何だろう、と考えたときに思うのは、「学校に来たからこそ体験できること」。あの頃に戻った目線で学んだり、交流したり、そうした時間を楽しみにしてくださるお客様に来ていただきたいです。実際そういう方に来ていただけるんじゃないかと考えています。

実際に心に残っている出来事はありますか?
関東から来られた20代の女性が、滞在中に同世代のメンバーと一緒に焼肉をしたことがありました。終わったあとに「同級生の男の子と話したみたいで懐かしかった」とおっしゃっていました。普段は同じ土地に何度も来ることは少ないけど、知り合いが増えて「また会いたい人ができる」のが面白い、とも話してくれました。その「同級生みたい」という表現がとても心に残っています。
また、バーベキューのときにキャンプ好きの方と話していた際に、「キャンプサイトを開きたい」と伝えたところ、「じゃあ実験台になりますよ」と言ってくださり、プレ実施に協力してもらえることになりました。一緒に盛り上げてくださる気持ちが本当に嬉しいです。
もちろん集まる人の相性もありますが、この土地にはそうした可能性があると感じます。先ほどの農家さんとお客様の交流もそうですが、米沢の人の温かさが出会いを生み、お互いをハッピーにしてくれる。その瞬間に立ち会えるのは、とてもありがたいことです。

この場所にどんな未来を見て、訪れる方にどんな変化をもたらしたいですか?
ここは一度廃校になった場所ですが、再び国内外から人が訪れ、米沢とつながりを持てる場にしていきたいと思っています。日本では人口減少に伴い廃校が増えていますが、地域主体の活用が事業として成功している例はほとんどありません。だからこそ、この場所でお客様が楽しい時間を過ごし、米沢での思い出を持ち帰り、地域の人も「来てくれてありがとう」と感じられるような循環をつくることができれば、同じ課題を抱える地域の希望のモデルにもなれると思います。
また、訪れる方にはここで仲間や家族と語り合い、懐かしい気持ちになれる時間や、「こんな世界があるんだ」と新しい発見を持ち帰っていただけたら嬉しいです。ひょんなことから「また会いたい人ができた」というような出会いや気づきも、この場所ならではの価値になると考えています。

谷山さんご自身が旅や体験などから受けた影響などはありますか?
私がここでやろうとしていることの原点は、新卒の頃の経験にあります。福岡でまちづくり、香川で海の家の運営を行き来しながら取材をしていた時期がありました。福岡の離島では、地元の方に誘われ、「潮の流れが交わるから、この立派なワカメが採れるんだよ」と教えてもらったことがあります。自分の知らない世界が一気に広がる体験が、とても面白かったんです。
また、数年後に再訪したときに、そこで出会った人たちが「また来たのね」と迎えてくれ、親戚のような、友達のような関係を築けていたことがとても嬉しかったです。大学時代に関わった自由が丘の商店街も同じように感じていて、そうした「もう一つのふるさと」のような存在は、私にとってアナザースカイのようなものです。
だからこそ米沢も、訪れた方にとって「また帰ってきたい」と思える第二のふるさとになればと願っています。

とこことはどんな存在ですか?
とこことは、地方の面白さと地域の人や県外の方がつながれる、「出会いを試せるフィールド」だと思っています。以前は拠点を持たずに移住ツアーやガイドを通して出会いを作っていましたが、ここは拠点を活かして新しく面白い出会い方を生み出せる場です。いろいろなトライアンドエラーを重ね、3年後には米沢に縁がなかった人にも「米沢がアナザースカイのような場所」と感じてもらえるような現象を起こしたいです。

谷山紀佳さんの心意気とは
「米沢との縁が増える世界をつくりたい」
廃校になったこの場所を再び国内外から人が訪れ、米沢とつながりを持てる場にしたいという想いを抱く谷山さん。知らなかった世界に触れることで視野が広がり、特別な出会いが生まれていく。
学校という誰にとっても平等な場所だからこそ、訪れた人も地域の人も、新しい学びや出会いを得られる場にしたい。その心意気が強く伝わってきました。
