心意気インタビューとは、地域の「ヒト・モノ・コト」の心意気を発見していくコンテンツ。
今回の取材先は、よねざわ昆虫館様(以下敬省略)に勤めている島貫清美(しまぬききよみ)さん。
よねざわ昆虫館は2003年の9月に「三沢コミュニティセンター」完成と同時にオープンしました。
昆虫館での日々の活動をはじめ、「虫の面白さ」や「生き物と自然のつながり」の大切さについて、島貫清美さんにお話を伺いました。
この記事で読めること
島貫清美さんへのインタビュー
よねざわ昆虫館で働くことになったきっかけを教えてください
よねざわ昆虫館で働くようになったきっかけは、娘の自由研究を通じて館のお手伝いをするようになったことです。その後お手伝いをするうちに、「こうした仕事は面白い」と感じるようになり、現在に至ります。
よねざわ昆虫館が開館したのは2003年ですが、その少し前、娘が夏休みの自由研究で「トンボの標本を作ってみたい」と言い出し、標本の作り方を教えてもらいに訪れたのが、私と昆虫館との最初のつながりでした。それまでは一緒にトンボの観察をするだけで、標本づくりまではやっていなかったんです。
訪れたのはちょうど開館前の準備の時期で、館内は慌ただしい雰囲気でした。当時私は訪問介護のヘルパーをしていて、利用者様のお宅を訪ねる合間に少し時間の余裕ができることがありました。そんな空き時間を利用して、少しずつ作業を手伝わせていただくようになったんです。
最初は簡単なお手伝いでしたが、次第に展示の準備や作業の手順などを教えていただくようになり、活動の幅が広がっていきました。実はそれ以前から、娘が参加していたトンボの観察会に、私も付き添うかたちで3〜4年ほど参加していたこともあり、昆虫には親しみを持つようになっていたのだと思います。
そうしてさまざまな作業に携わるうちに、「こういう仕事って面白いな」と感じるようになり、より前向きに関与するようになっていきました。
ちょうどその頃、よねざわ昆虫館で働いていた方が別の職場に異動されることになり、そのタイミングで「もしよければ」とお声がけいただき、その方の後任として正式に働かせていただくことになりました。
以前からお手伝いをしていたので、仕事の流れや館の雰囲気はある程度理解していましたし、専門的な知識はなかったものの、「展示の準備や日々の業務で、少しでも役に立てることがあるのなら」と思い、この仕事に就くことを決めました。

普段はどの様なお仕事をされていますか?
業務内容は多岐にわたります。
まずは館内の整理整頓から始まり、現在飼育している生き物の管理も行っています。
餌やりや掃除などが主な作業で、これは私一人ではなく、米沢市から配属されている地域おこし協力隊員とともに取り組んでいます。また、併設している三沢コミュニティセンターの職員の方にもお手伝いいただきながら、日々の管理を行っています。
そのほかには、展示の企画や、企画した内容を具体的な展示として形にする作業も担当しています。
また、普及活動の一環としてイベントの企画・運営も行っており、スタッフの手配、予算の管理、チラシ作成なども含まれます。さらに、ホームページやSNSへの掲載など、広報全般にも力を入れています。
また「冬は何をしているのか」とよく尋ねられるのですが、冬季は事業の報告・決算資料の作成、次年度の企画・予算の立案、収蔵されている標本のデータ整備を行っています。データ整備では標本情報をデジタル化し、国立科学博物館が運営しているデータ集積サイトに提出しています。そのサイトには全国の自然史標本のデータが集められており、当館の情報も掲載されています。それを見た研究者の方から、「この標本をお借りしたい」「このデータについて詳しく知りたい」といった問い合わせをいただくこともあります。ほかにも、「この虫の名前を教えてください」「どこで採集できますか」「標本の作り方を知りたい」といった、虫に関するさまざまな質問が寄せられます。そうしたお問い合わせへの対応、いわゆるレファレンス活動も重要な業務のひとつです。
昆虫の生態標本の管理方法は、どのようにして学びましたか。
最初は本当に「何も知らない素人」からのスタートでした。ですので、とにかく専門の方にたくさん質問をしました。「わからないことは、わかる人に聞く」という姿勢で、最初から一つひとつ教えていただきながら学んでいきました。もともと生き物は好きでしたし、学校の授業でも「生物」は好きな教科でした。
ただ、それと実際の標本管理は全く別の話です。私はこの分野で専門の大学などには通っていませんが、知識や技術は「とにかく聞く」そして「実際にやってみる」という流れで経験を積んできました。
アマチュアであっても、長年昆虫を集めている方、経験豊富な方がたくさんいらっしゃいます。そうした方々から学ぶことが、結果的にいちばんの近道だと感じています。
もちろん、教えていただいた通りにやってもうまくいかないこともあります。そのようなときには、インターネットなどで調べることもありますが、やはり現場で経験のある方に直接聞くのが一番確実だと思っています。
やってみて「これは違うかもしれない」と感じたときには、自分なりに工夫して、別の方法を試してみることもありました。失敗したこともたくさんあります。「このやり方ではダメだったな」と思ったら、次は違う方法でやってみる。その繰り返しの中で、少しずつできるようになってきたという感じです。たとえば、標本の脚が折れてしまうこともあります。ぶつかってしまったり、移動中に倒れてしまったりすることが原因です。
そのため、脚が折れてしまった場合の修復方法も、専門の方に教えていただきました。
標本はとても繊細なものですから、基本的には「なるべく触らない」「なるべく動かさない」ことが大切です。ただ、展示を入れ替えるたびにどうしても動かさざるを得ない場面もあります。特に大切な標本については細心の注意を払って扱うようにしています。

標本の種類によって貴重性の違いなどはありますか?
それはデータによります。「いつ」「どこで」「誰が」採集したかという情報が、標本を研究資料として成り立たせるための非常に重要な要素です。すでに採集が困難になっている場所もありますので、そうした記録がある標本は特に貴重です。
標本にはラベルと呼ばれる小さな紙をつけて、採集日時や場所、採集者名などの情報を記入し、ピンで標本に添えるのが基本です。このラベルがなければ、その標本は「ただの死んだ虫」にすぎず、研究資料としてはまったく役に立ちません。逆に、適切なラベルが付いていれば、たとえ普通種であってもその標本は「自然史の記録」として価値を持ち、研究者が論文に引用するような、重要な資料となります。
私たちは標本の基本的な作り方を教える教室も行っていますが、参加される子どもたちの保護者様の中には「虫を殺すのはかわいそう」と感じる方もいらっしゃいます。しかし実際には、モンシロチョウのような「普通種」こそ記録が減ってきており、「いつ、どこで見られたか」の情報が非常に重要になっています。そうした情報は、子どもたちの自由研究や学校の理科発表などを通じて専門家の目にとまり、評価されることもあります。新聞などでも「小学生が新種を発見」といった記事を目にすることがありますが、それもこうした地道な記録の積み重ねから生まれているのです。
全国すべての地域を専門家だけで調査することはできません。ですから、子どもやアマチュアの方々の観察や記録が非常に大切な資料となることがあります。
また、標本は正しく管理すれば100年以上保存できます。「命を大切にする」という考え方からも、しっかりとラベルをつけて記録として残すことには意味があると考えています。その価値を、もっと多くの方に理解していただきたいという思いがあります。
実際に、当館が所蔵する標本の一部も、昨年は1件、今年は2件、論文への引用依頼があります。また現在、山形県立博物館で開催されている「さくらんぼ~山形県民、挑戦の結実~」には、当館の蜂の標本も提供しています。(開催期間/2025年5月31日(土)~8月31日(日)まで)
こうした形で、他の博物館とのつながりが生まれることもあり、自分たちの活動が研究や資料として役立っていることを実感します。

過去に開催したイベントについて教えてください。
以前、「虫はごちそう」というテーマでワークショップを開催したことがあります。いわゆる昆虫食の体験で、その時はイナゴを実際に捕まえて、佃煮にして食べるという内容でした。この企画は大変好評で、申し込みが殺到し、やむを得ず参加をお断りしなければならない方も出るほどでした。
そのときはイナゴだけでなく、偶然手に入ったカミキリムシの幼虫も調理しました。フライパンに少し油を引いて炒めたのですが、「フライドポテトのような香り」がして、これが美味しいんですよ。見た目に抵抗を感じる方もいらっしゃいますが、先入観のない小さなお子さんの方がよく食べていました。「おいしい!」「もっと食べたい」とリクエストが続出したため、「一人2つまでね」と制限を設けるほどの人気ぶりでした。
昆虫に関する取り組みとしては、企画展示や生体展示だけでなく、虫を題材にしたオリジナルキャラの缶バッジやマグネットなどの制作も行っています。また現在配属されている地域おこし協力隊員が、ご自身で革細工をされているということもあって、専用の加工機を使ってロゴやイラストを革に刻印し、グッズとして制作していただいています。これが人気で、販売も好調です。
最近では体験イベント「虫フェス」の中で昆虫食体験を実施しており、イナゴの佃煮やコオロギパウダーを使った煎餅やクッキーなども提供しました。また、昆虫が作り出す自然の食品として、「花の種類による蜂蜜の味のちがい」を楽しむ食べ比べも行っています。
ただし、虫フェスに来場される虫好きの方々は、「虫の姿がはっきり分かる形状」を喜ぶ傾向があります。一方で昆虫食を初めて食べる方には、ふりかけ状やパウダータイプの昆虫食品の方が受け入れやすいようです。たとえば、パウダーをポテトチップスにまぶすと、「きな粉のような風味」があり、意外と食べやすいという声もあります。
また、東南アジアで食べられている「タイワンタガメ」という昆虫は、「青リンゴのような香り」がするのが特徴です。それを使った「タガメサイダー」という商品もあり、イベントでは試飲してもらっています。こちらも非常に人気があります。
このように、イベントに来場いただく方々は昆虫食に対してあまり抵抗がなく、むしろ「虫らしい見た目の方が良い」という反応が多いです。以前は当館で開催している文化祭でも昆虫食を紹介しましたが、そのときは私自身がバリバリ食べていただけで、周囲から少し引かれてしまいました。

どんな時にやりがいを感じますか?
やりがいを感じるのは、お手紙をいただいたときです。来館された方からの質問に答えたり、技術に関する指導を行ったりしますと、その後に結果を報告してくださることがあります。また、小さなお子さんが「楽しかった」と言って、お手紙を持ってきてくれることもあります。
来館者の方にはアンケートにもご協力いただいており、「満足・やや満足・不満」の項目に加えて、その理由を書く欄があります。そこに想いのこもったコメントを書いてくださることがあり、それを読むと「自分が伝えたいと思っていたことが、ちゃんと伝わっているんだな」と感じられて、とても励みになります。それが何よりのモチベーションになっています。
また、ご意見をいただいた際に、改善点に気づかされることがあります。すべてにお応えするのは難しいのですが、「できることはやってみよう」と思えるご意見も多く、そうした点もやりがいにつながっています。

大切にしてきたことはありますか。
大切にしてきたことは、やはり「生き物の命」、そして「人間も地球の生き物の一部なんだ」という意識です。私たちは、人間だけで生きているのではなく、他の生き物に生かされているんだということを、伝えたいと思っています。
だからこそ、他の生き物を「知る」ことがとても大事だと感じています。たとえば、「地球上の生き物」の中で昆虫が非常に大きな割合を占めています。数年前に出版された『昆虫の惑星』という本には、こんな言葉がありました。「虫のお世話になっていない人は、この地球上に一人もいない」。まさにその通りだと思います。
もし昆虫がいなくなったら、私たちはこの地球上で生きていけません。たとえば「土」を作る働きにおいても、まずは腐ったものを分解する虫がいて、その後にバクテリアが分解して、栄養豊富な土になる。それによって植物が育つわけです。
植物は風で受粉するものもありますが、多くは虫が受粉を助けています。例えば、「さくらんぼ」もそうです。今年の4月、花が咲いた時期に寒さが続き、蜂が飛べずに受粉できなかったため、さくらんぼが不作でした。植物も寒いと蜜を出さない。虫が飛ぶ気温になるのを待っているんですね。虫がいないと、私たちが食べている多くの食べ物は実らないのです。
虫たちは「目に見えないところ」で、とても重要な仕事をしてくれています。害虫と呼ばれるものもいますが、植物が増えすぎるのを抑えたり、他の生き物の餌になったりと、生態系のバランスを保つ大事な存在です。食物連鎖のピラミッドの下部にいて、虫がいなくなると、その上の生き物もどんどん少なくなってしまいます。
だから私は、最初から難しい話をするのではなく、「虫にはこんなにたくさんの種類がいる」「どこにいるんだろう?」というような素朴な疑問から興味を持ってもらって、やがては「環境」や「命のつながり」まで関心が深まっていくといいなと思っています。
企画展を開催する際のテーマは「人と昆虫の関わり」です。たとえば米沢織に使われる蚕も昆虫ですし、果樹の栽培にも「昆虫の受粉をするはたらき」は欠かせません。蜂はローヤルゼリーやプロポリスなど、体に良いものを私たちに与えてくれています。
こうした「人と昆虫のつながり」や「命の循環の大切さ」は、ずっと大事にしてきたテーマです。変わらずに続く虫たちの営みが、実は今の私たちの生活につながっている。このことを、伝えていきたいと思っています。
常設展示では「パネル展示」で少しずつ伝えられるように、順を追って見ていただけるように工夫しているところです。展示室の入口から出口に向かうまでのあいだに、自然に学んでもらえたら嬉しいですね。
これからの目標はありますか?
昆虫をきっかけに、たくさんのことを学べるような施設にすることが目標です。単に「虫を見て楽しい」というだけでなく、そこから自然環境や命の循環、私たちの暮らしとのつながりについて考えるきっかけになる、そんな場であってほしいと願っています。
今、私たちが生きる地球では「持続可能な社会を目指しましょう」と言われていますが、実際には温暖化を止める決定的な手立てはなく、環境は確実に変わってきています。そのなかで、インターネットやバーチャルの世界だけではなく、「現実の身近な自然」にちゃんと目を向けてほしいと思っています。
「今、身近な環境はどうなっているのか?」「私たちに何ができるのか?」そんなことを考えるきっかけになるような施設になれたらと願っています。それが、私の理想です。
もちろん、今の展示や取り組みですべてが実現できているかというと、そうではありません。一番大事なのは「まずは楽しんでもらうこと」だと思っています。楽しくなければ、心に残りません。だからこそ、「楽しい」という入り口から入って、いつかふとしたときに思い出してくれる、そんな場であってほしいのです。
特に、小さい頃に体験したことは、大人になっても強く記憶に残っているものです。もしかしたら、自分に子どもができたときに、「そういえば昔、よねざわ昆虫館でいろいろな体験をしたな」と思い出して、また親子で訪れてもらえるかもしれません。
年齢を重ねると、同じものを見ても受け取り方が変わってくることがありますよね。だからこそ、「前に行ったからもういいや」ではなく、ぜひ何度でも足を運んでいただけたらと思っています。展示は同じでも、前とは感じ方が違っていたり、新しい発見があったりするかもしれません。
この施設は無料ですので、どうぞ気軽に何度でも訪れてください。すみずみまで見ようと思ったら、本当に時間が足りないくらい、たくさんのものがあります。それぐらいじっくり見て、楽しんで、学んでもらえる場所になっていれば嬉しいですね。

取材を終えて 島貫清美さんの心意気とは
「ちいさなともだち 昆虫」
虫たちは、ふだんは目に見えないところで地球の環境を支えています。そんな虫たちのことを知ることで、自然や命のつながりに気づいてもらいたい。展示や活動には、そんな思いが込められています。
昆虫は、私たちとともに生きる「ちいさなともだち」。そんな関係を、これからも大切にしていきたいという島貫さんの心意気が見えてきました。
