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心意気コラム

公開日:2025.12.12

最終更新日:2025.12.12

《心意気インタビュー》KOMFORTAの志賀しず香さん

鈴木 貴美子

《心意気インタビュー》KOMFORTAの志賀しず香さん

《心意気インタビュー》KOMFORTAの志賀しず香さん

心意気インタビューとは、地域の「ヒト・モノ・コト」の心意気を発見していくコンテンツ。

今回の取材先は、米沢で愛されるスイーツ店「KOMFORTA(コンフォルタ)」を営む志賀しず香(しが しずか)さん。

地元産の米や卵を使用し、グルテンフリーの米粉バウムクーヘンを中心に、多くの人へ笑顔を届けている志賀さん。ゼロから店を立ち上げた挑戦の軌跡を伺いました。

志賀しず香さんへのインタビュー

「KOMFORTA」を始められたきっかけを教えてください。

私が米粉に向き合うようになった原点には、父の闘病経験があります。

父は癌を患い、腸閉塞を繰り返していた時期がありました。「麺が食べたい」という父の願いを叶えてあげたかったのですが、麺は小麦が原料のため食べることができず、消化の良いものしか口にできませんでした。結局、父は食べたいものを口にすることのないまま亡くなりました。その後、私は病院で働くようになり、父と同じような悩みを抱える方々と多く出会いました。その中で、「自分にできることはないだろうか」と考えるようになりました。

当時は、今のように米粉製品が身近ではなく、選択肢もほとんどありませんでした。
「それなら、自分で作るしかない」と思い、麺やケーキ、パンなどの試作をしたのが始まりです。

「あの時の患者さんたちに食べてほしい」──その思いを胸に、まずは自宅隣のトレーラーハウスを使い、小さなカフェをオープンしました。

トレーラーハウス時代で印象に残っている出来事はありますか?

当初は、病院に通われていた患者さんが多く来てくださいました。
徐々に地域の方々にも利用していただくようになり、その時期に「まちづくりプラン」で最優秀賞をいただいたことも大きな出来事です。

米沢産のお米、特に規格外品を活かし、農家さんの新たな収入源を生み出すという取り組みです。試作段階では商品化が難しかったお米も、米粉に加工することで新たな商品として活かすことができ、農家の方々と私たちの双方に収益をもたらす仕組みが動き出した時期でもありました。

現在の米粉バウムクーヘンの人気や、お客様の反応はいかがですか?

今では米粉バウムクーヘンがお店の主役になりました。カフェとしてのご利用もありますが、お土産として買われる方が多いです。

もともとは、父の経験のように“食事に制限がある方にも安心して食べていただけるものを”という思いから始まりましたが、次第に一般のお客様にも広がり、「米沢に来たらこれを買おう」と思っていただける存在を目指してきました。少しずつ定着してきていると感じます。

観光で春日山林泉寺から歩いていらっしゃる方は、カフェで小さなバウムクーヘンを楽しみ、そのままお土産としても購入されます。大学生が帰省時に選んでくれることも多いですね。現在は上杉城史苑さん、道の駅米沢さんでも取り扱っていただいています。原料の卵も米沢産で、できる限り地元の安心で安全な素材を使うことを心がけています。

米粉商品のこだわりや、広めるための工夫を教えてください。

とにかく“知ってもらうこと”が第一だと考えています。
米沢の地元食材を使いながら、県内外のイベントや出店に積極的に参加しています。名前を知っていただけなければ、手に取ってもらえませんからね。
通販はまだ行っていないため、上杉城史苑さん、道の駅米沢さん、ヨークベニマルさん、そして店舗でのみ購入できます。ご来店いただいた方に直接知っていただけるのは、やはり嬉しいですね。山形市のビッグウイングでの出店や、観光物産を通して沖縄でも販売していただいています。
「米沢のもの」として広めていくことを常に意識しています。

事業を続ける中での苦労や、支えになった出来事はありますか?

商品化には、機械一台だけでも高額な設備投資が必要で、当初は「いつかできたら…」というレベルの夢でした。それがコロナ禍の事業再構築補助金をきっかけに、機械を導入することができました。

コロナ禍は本当に厳しかったです。観光客が消え、お店の前にある山形大学工学部で最初の感染者が出た時は、ニュースを見た瞬間に町から人がいなくなり驚きました。それでも、常連さんやパンのテイクアウトで支えていただき、なんとか踏ん張れました。その時は「もうダメかもしれない」と思ったほどです。

今も完全に元の状況には戻っていませんが、動きながら日々学んでいるところです。息子の新しい発想やITの力にも助けられています。支えてもらえるのは、本当にありがたいことです。また、知っていただかないと「バウムクーヘン?何それ?」で終わってしまうので、「米沢バウム」という名前に込め、米沢を知っていただくきっかけになればと考えています。週末は観光の方も多く、地元のカフェとはまた違った雰囲気になっています。

カフェ運営を続ける中での新しい挑戦や目標はありますか?

新たなチャレンジとして考えているのは、事業拡大です。4月から新しい卸先を検討中で、さらに来年の4月1日には息子が店に入る予定です。生産量が倍になる見込みの中で、人手不足を補いながら卸先を増やし、事業拡大に向けて動き始めています。

スタッフは扶養内で働く方が多く、限られた時間の中で効率的に動く必要があります。そのため、私は週に2~3回の配達も自分で担当し、打ち合わせや片付けもこなしています。11時開店・17時閉店の営業を終えると、18時には帰宅して家事に戻る──そんな日々を365日続けています。

今は1人でバウムクーヘンを作ることが難しく、夫にも手伝ってもらっていますが、一日に焼けるのは108個が限界です。繁忙期には寝る間もないほどで、米粉は配合・温度・湿度の管理が難しく、バウムクーヘンづくりは重労働でもあり、誰でもすぐにこなせる仕事ではありません。こうした中で、息子が店に入ることで製造や配達の負担が分散され、事業拡大に向けた体制を整えていけると感じています。

KOMFORTAを続ける上で、大切にしている想いを教てください。

息子が店に入ることをきっかけに、改めて守り続けたいと感じているものがあります。

息子がブランド名の「月白(つきしろ)」と「琥珀(こはく)」を残したいと言い、継いでくれることになりました。これらの名前は、娘(マシロ)と息子(ハクト)の名前にちなんでいます。商品名の由来が子どもたちの名前だと知る人はごく身近に限られていましたが、米沢に残していきたい大切な想いです。

子どもたちに“何かを残したい”という気持ちが、「月白」と「琥珀」という商品名に結びつきました。店で使う卵は真っ白で、お米を食べて育った鶏の卵です。息子と娘の名前に共通する「白」が重なり、自然とこの名前になりました。

米沢は若い人が残りにくい地域です。だからこそ、息子の代で店を続け、仲間を増やし、若い人が米沢に残るきっかけになればという思いがあります。息子とは仕事の話を含めて、かなり厳しく話し合いますが、一度もケンカをしたことがありません。ずっと同じ方向を見ているからこそ、「この子ならやっていける」と思えました。

娘は看護師の道に進みましたが、忙しい時には手伝ってくれます。それぞれの道で頑張ってくれているのが嬉しいですね。

店を始めた頃から、子どもたちには「店は多くの人に助けてもらって成り立っている」と伝え続け、イベントにも連れていき、人との関わりを見せてきました。今はキッチンカーも息子と動かし、マルシェ運営も任せています。繋がりの大切さを感じてほしいからです。

私自身、地元・米沢が大好きです。一度外に出て医療系の資格を取りましたが、子育ても含め米沢で暮らしたいと思い戻りました。経営は決して簡単ではなく、「山形市の方が人が多いのに」と言われることもよくあります。それでも“米沢のものを米沢で”という思いは揺らぎません。ここで続けたい。そして、この場所に残していきたい。その想いが、今も私を支えています。

困難を乗り越え、地域と人を思う志賀さんの心意気とは?

「ご縁を大切に」
志賀さんのお話を伺って強く感じた事は、どんな困難の中でも“ご縁を力に変えて進んでいく”まっすぐな姿勢でした。飲食店の経験もないところからのスタートで、資金調達もうまくいかず、それでも自らの貯金を投じて一歩を踏み出した志賀さん。その背景には、「自分の力だけではなく、支えてくれる人への感謝」を常に忘れない姿勢があると思いました。

また、「地元のためにやりたいなら応援する」という言葉に象徴されるように、志賀さんの挑戦は地域の方々との温かいつながりに支えられています。だからこそ、息子さんにも「人とのつながりを大切に」と伝えているのだと感じます。志賀さんのなかで“ご縁を大切にすること”は、ただの言葉ではなく、人生とお店づくりを通して積み重ねてきた信念そのものだと思います。そのひとつひとつの選択に、地域と人への深い思いが込められていました。

商品名に「米沢」を掲げ、この街を訪れるきっかけになるような商品づくりを続ける志賀さん。訪れた方に「ここに来てよかった」と思ってもらいたいという願いと、地域を盛り上げたいという思いが、お話から伝わってきました。また、グルテンフリーへの徹底したこだわりも志賀さんの“心意気”のひとつだと思います。工場を分けて小麦を入れない環境を整え、保存料も最小限に。米沢らしさと身体への優しさを両立させたいという誠実な姿勢に、志賀さんのまっすぐな想いを強く感じました。

このコラムを書いた人
鈴木 貴美子

私の趣味は料理をすることです。簡単な調理方法のものやじっくり煮込むものなど手の凝った料理も好きです。自己満足のレベルではありますが作ることが楽しいです。料理で相手を笑顔に出来たら最高だなと思います。仕事においても相手に喜んでいただけるよう貢献していきたいと考えています。新しいことへの挑戦を継続し、小さな努力を積み重ねて目標を達成したいと思っています。

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